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東大寺
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■ 辺りはすっかり暗くなった。
しばらく歩いてゆくと、広い通りにぶつかる。そのまま歩くと、大きな門が見えてくる。これが東大寺の南大門であった。
私は中に入ることはしなかった。低く三脚を立て、長い露出を試みる。アングル・ファインダーを持ってこなかったので、こうした場合、ほとんどノーファインダーに近くなる。どうせ月の明かりだけなので、覗いたとしても見えないのだ。
誰の作品だったか、昔、東大寺の柱の中に住んでいる戦災孤児の写真を見たことがある。子供が内側で眠れるくらい太い。中は空洞になっていた。
その子も、もし生きていれば六十歳をとうに超えておられるだろう。
天平勝宝四年(752)年、大仏は開眼する。
律令体制はゆきづまり、飢饉や流行病が横行する。聖武天皇の目は次第に現実を離れ、仏教による理想国家を夢想するようになる。
雑戸や奴婢と呼ばれた賤民がかりだされ、膨大な富が費やされた。
ただその仏像も、相次ぐ戦乱で二度焼け落ち、今あるものは江戸時代に再建されたものだという。
私はしゃがみながら、露出の時間を測っていた。
遠くで若い女性の声がして、境内をふたりで歩いているようだ。
2002_10_27
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