「緑色の坂の道」vol.7060

 
    12月の花束。
 
 
 
■ 薄い雨の日、軽く磨いてもらったばかりの車で走った。
 ばかり、と言ってももう二週間は過ぎている。
 硬いオイルは暖まらず、デフの辺りも少しばかりいやいやをしている。
 夏の頃、エンジンのパッキンを替えてやったので今は滲む程度。これ以上を求めるなら下までバラさないとならない。
 それにしても煩い車だな、いちいち吠えなくてもいいじゃないか。
 と、思いながら、少し痺れる足で重いアクセルペダルを踏みすぎないよう、爪先に注意を向けようと心掛けていた。
 

「緑色の坂の道」vol.7059

 
    木枯しまえ 2.
 
 
 
■ 吾亦紅は二度買った。
 アトリエというか仕事場の棚の上に活けておくと、枯れた虫のような形と色になる。
 多分乾いてしまったのだろう。
 何台か動いているWSというかタワー型PCの排熱はそこそこあって、夏場だと小型のサーキュレータを併用しなければならない。時々ブロアで吹く。
 

「緑色の坂の道」vol.7058

 
    木枯しまえ。
 
 
 
■ 西の空が一度に曇って風が出てきた。
 私は矩形のスペースに横になって窓の外をみていた。
 冬が近いのだろう。
 思うことはいくつもあるが、緑坂に書くまでもなく、雑事と昼間の厄介に追われるのが常である。
 

「緑色の坂の道」vol.7057

 
    吾亦紅。
 
 
 
■ 野の花が好きである。
 しかし単体で眺めるのがよくて、実際に山や野を歩くということはほとんどしない。
 短く切ったものを小さな花瓶に入れ、デスクの上に置いておいた。
 台風が近づくという夕刻、庭から虫の音がきこえている。
 

「緑色の坂の道」vol.7056

 
    夜螳螂。
 
 
 
■ 満月の頃、地下に降りていくと車の屋根に動くものがある。
 バッタかなといぶかんだが、こちらを向いた頭と斧が蟷螂である。
 私は小型車のエンジンをかけ、屋根の上に乗せたままスロープを昇った。
 

「緑色の坂の道」vol.7055

 
    とんぼ。
 
 
 
■ 背の高い銀杏の樹の周りを飛んでいる。
 蝶の季節は過ぎたので、それがトンボだと気づくのに時間がかかった。
 私は七部袖の麻のシャツを片付け、旅の支度をしている。
 

「緑色の坂の道」vol.7054

 
    水が立っている。
 
 
 
■ 六月になるとそうだ。
 洗ったばかりの指の先や欠けた奥歯の触りから、おかしなことを思い出す。
 あれは何時だったか、こんな風に走っていて誰かを迎えにいった。
 視ていたものは多分自分で、モノレールの下の運河が黒く光っていた。
 ちらちら横眼で眺めながら、このオイルも山を過ぎたなと感じている。
 

「緑色の坂の道」vol.7053

 
    雨のまえの満月。
 
 
 
■ トラックに囲まれた渋滞だった。
 この時間にと訝しいが、月末の補修工事が続いている。
 私は中森明菜さんの曲を真面目に聴いていた。低音から震えていく流れがいい。
 富士や青森のナンバーに囲まれて、長距離の彼らは何の音を流しているのか、最近はサイドのマーカーも輝度の高いLEDが主流である。
 空は曇り、薄い雨がフロントガラスに零れる。
 国文を出た彼が明菜のファンで、青山二郎と小林秀雄、それにまつわる女のことを熱心に語っていたことを覚えている。
 

「緑色の坂の道」vol.7052

 
    待っている。
 
 
 
■ 先日処分した時に、チャンドラーの文庫も何冊か入っていた。
 今読み返すとあちこちが痒くなるような時もあって、この恥ずかしさというのは何処からくるのかわからない。
 昼間の厄介であれなんであれ、しゃにむに突っ込んでいく時期が過ぎると、出方をみていたり効果があるだろう時期まで寝かせることを覚える。
 待っているわけだが、その時間をどうやり過ごすかでいつも少しだけ困っている。
 それはね、修行が足りないのよ。
 常に正しい声が耳元を横切る。
 

「緑色の坂の道」vol.7051

 
    スペインの石。
 
 
 
■ 気に入ったものを色違いで買うということを時々やる。
 化学繊維が混ざるようになってからのバラクータのG4がそうで、そのうちミストと呼ばれる白いものは洗濯屋がしくじって妙に柔らかくなってしまった。
 それはそれで、腕まくりしやすいので羽織っている。裏地が派手だから、ある意味で結構あざとい。