We shall fight on the beaches.
 
 
 
■ 緑坂を何度か書いたものの没にしていた。
 世の中がなんとも言えないからである。
 落ち着いて文章を書くよりも、例えば他にすることがあるという。
 マスクの下の髭の長さを揃えたり、B級映画を眺めたり、予定変更の打ち合わせを電話やメールで繰り返したり、つまり雑事が増えたのである。
 エタノールは純水で薄めよう。
 


 
■ チャーチルの評伝は何冊か読んだ。
 内容のほとんどは忘れてしまったけれども、中の一冊に、彼の演説がレコードになっていて、それを聞いたことが執筆のきっかけになっていると書かれているものがあった。
 幼少期に膨大な古典を読みふけったこと。原稿に何度も手を入れていたこと。言葉のリズムと韻。
 チャーチルの演説は現在動画で簡単に見ることはできるのだが、声、音だけというレコードではまた違った印象になるだろう。当時の人々は主にラジオで聴いていたからである。
 目前の困難に対し意味付けをしていくこと。大きな物語の渦中にあるものだと聴衆を鼓舞すること。
 やや複雑な環境に育った感受性豊かな良家の子弟。不良少年の気配もある。曲折を経て歴史の舞台に躍り出ていくプロセスは、正反対のベクトルではあるけれども、一方で演説の名手だったトロッキーを思い出させた。
 
 
 
■ We shall defend our island, whatever the cost may be.
 We shall never surrender.
 
 外出制限が出されたNYのタイムズスクエア。
 角の辺りに停まって警備しているNYPDのSUV。そんなものは今ライブカメラで覗くことはできる。
 ネオンの光が変わる度に、アスファルトもコンクリートも微妙に色を変えている。
 パーカーのフードを被った男が大股で歩いていて、立ち止まっては後ろを振り返っていた。