You're My Everything.
 
 
 
■ 後部座席にライカのデジカメが置いてある。
 おまけで貰ったようなカメラ・バックにウェスで包んで入れ、レンズ・キャップは置いてきてあった。転がして捜しにいくのが恥ずかしいからである。
 ライカと言ってもコンシューマー向けのそれだから、ほとんど見栄の世界に近いのだが、なかなかこれといった写りにならない。簡単に言えば癖の強い描写をするのである。
 取り出して触り、一二枚を撮っては片付ける。これならM6に銀塩のモノクロを入れてきた方が良かったと薄く後悔するのが常だった。
 ここから、昨今の写真について語ろうと思ったが億劫なのでやめにする。
 

 
■ PAにメルセデスのSが駐まっていて、フロントのバンパーが外れている。
 男が二人、その前であれやこれやをしていた。一瞬、事故ったのかと思ったが少し様子が違う。私は近くに車を駐めて声をかける。ライトを交換してるんですよ、とそのうちの一人が答えた。
 V12のエンブレムがあって、多分10年近く前の12気筒である。エンジンルームはぎっちりで、要所要所に後付けの銀色の断熱材が貼られていた。ターボだ。この車がどうかは分からないが、下手すると600馬力を超えた車種もあったように記憶している。
 男たちは30代後半から40代半ばで、ツレなのだろう。工具箱を二つ下に置き、FRPのバンパーの位置合わせをしている。プラスチック成型のライトは黄ばんでしまうものだから、程度のいいものがあれば後付けで取り換える。そんなことを、ここで落ち合ってやっているのだと思われた。
 
 
 
■ 何時も飲んでいる缶コーヒーが10円安くなっていた。
 釣銭を屈んで指でほじくり出す。この姿形ばかりは昔と少しも変わらない。
 喫煙所で一本を吸い、パーカーのフードを被る。
 怪しいからやめてね、と周りからくれぐれも言われていた恰好である。
 髭もあるけれど、夜の色付きメガネが問題なのよ。まぁそうなんだけどね。
 フェンスの隙間から、左折レーンに止まっている車の屋根が見えた。少し絵になる。
 コストのかかるクレーンを使わずに映画を撮るならここもいいのかも知れないと、友人の監督の、病の予後で冷えていた指を思い出した。