「緑色の坂の道」vol.2900

 
     冬の雀 2.
 
 
 
■ 久しぶりにライカM6を引っ張り出してきて、数枚を撮った。
 コト。
 と、横走りのシャッターが下りる。
 ええ、静かに生きていくんです。という音なのだが、ちょっと慇懃無礼なところもあるだろうか。
 レンズはズミルックスである。
 昔、地方の病院を経営している友人と酒を飲んで、ライカのレンズの名前をいくつ言えるかを競った。そういう下らないことしか話さない。
 スーパー・アンギュロン。
 とか口にするとなんか、いいような気がすると思わないか。
 んんー、錯覚だが思う。
 幻の銘酒ってなもんか。
 すいません、チューハイください。
 
 
 
■ 生きてゆくのがメンドクサイから、脇道を捜す。
 つまりそれが趣味というものなのだろうが、脇道が仕事になっている場合にはドウシタラヨカロ。
 教会の屋根に積もる、黄色の銀杏の葉を眺めていて考えた。
 小さな雀もいる。

「緑色の坂の道」vol.2899

 
     冬の雀。
 
 
 
■ 灰色の空に鳥が飛んでいる。
 私はつかれて、使い物にならなかった。
「もう若くはないのよ」
 と、別れた妻に言われるのが深町丈太郎であるが、その頃深町はまだ30代半ばであった。
 今深町がもし勤め人なら、定年が近い頃合いである。
 古本屋で買った「部長・島コーサク」を眺めていると、団塊世代のネガとポジの関係にあるのが「事件屋稼業」であったと思われる。
 一方は大企業の取締役になってゆき、他方は横浜で恐らくは今も探偵を続ける。
 共通点は、別れた妻と娘がいることだ。
 
 
 
■ インテリヤクザ、黒崎を演じるには、やや枯れた原田芳雄さんがいいのかな、などと漠然と考えていた。河豚の立ち泳ぎの情報屋は、宍戸丈さんであろうか。
 ま、そうもゆかないだろうが、この季節、横浜というのは灰色である。
 街全体がモルタルでできているのではないかと思われる。
 私は本牧の辺りから脇道に入り、クリークの傍にある中華屋で不味いラーメンを食べるのが趣味だった。
 黄金町の辺りには近づかない。

「緑色の坂の道」vol.2898

 
     真夜中の色 3.
 
 
 
■ 夢のようにときが過ぎる。
 ベットに潜り込んで、いくつか夢をみた。
 誰かが遠くで歌っていて、あした浜辺をさまよえば
 これは古い日本の歌だ。
 
 
 
■ ここにはないものを描こうとする。
 そのために写真を使ったり、線を引き色を塗り、言葉を組み合わせたりする。
 写真は題材な訳だが、対象の向こうに何か薄く、普遍的なものがみえたような気になることも時にはある。
「酔っているんじゃないの」
「そうだよ」

「緑色の坂の道」vol.2897

 
     旅先のトリス 3.
 
 
 
■ この酒は、古くなった味の素に似て、大量には嘗めることができない。
 箱を開けると、プラスチックのコップというか定量スプーンに似たものがついてきて、唇にあたる。
 こんなところで、こんな風に、ただ酒を嘗めながらドテラを着ているのだなあ。
 と、思いつつ嘗める。
 もういちど風呂に入ろうかな。
 でもメンドクセエな。
 
 
 
■ 廊下に出ると、背中の曲がったご婦人が、浴衣の裾をひっぱりながら私を見ている。
 いやさ、案外に若いんで、うかうかできない。

「緑色の坂の道」vol.2896

 
     旅先のトリス 2.
 
 
 
■ いつだったか、山の近くの温泉にいった。
 アルプスの麓で、車で15分も走るとコンビニがある。
 この15分が本来は大きな意味があるのだが、それは都会に居るから言えることかも知れない。
 
 
 
■ 温泉のことは別に書く。
 私は一番安いポケット瓶を買った。
 窓と、リノリウム張りの鏡台の前にそれを置き、リバーサルでそれを撮った。
 カメラは同じものを二台持ってゆき、詰めるフィルムが違うのである。

「緑色の坂の道」vol.2895

 
     旅先のトリス。
 
 
 
■ 厭になったので、酒を嘗め始めた。
 洗いにくい、楕円のショット・グラスでである。
 酒は札一枚で買えたVAT69で、今裏のラベルを眺めると宮城県塩釜市が輸入元になっている。
 URLも載っていて、つまり海は繋がっているということなのだろう。
 
 
 
■ 大戦末期、伊58号(不確か)などで、ジェット戦闘機の設計図を運ぼうとした男達がいた。ことごとく沈められた訳だが、桜花や秋水などの原型は、そこからきているともいう。
 全てがFTPできてしまう時代には考えられないことでもあるが、かといって、合理性に耐え切れないひとたちは風水に凝る。
 明日が分からない、デザイナや美容師関係の方々も、腕に半透明の数珠を巻く。

「緑色の坂の道」vol.2894

 
     真夜中の色 2.
 
 
 
■ 優れた作品というものは普遍性を持っている。
 何度も版を重ねて古典的なものに近づく。
 作品というところを、コンテンツと置き換えると安っぽくもなるのだけれども。
 
 
 
■ 狙ってやればいいかというとそうではなくて。
 作品というのは怖いものがあって、サモシイ気分の時にはそういうものしかできない。
 サモシイというのは何かというと、タダ酒を飲むみたいなものだろうか。
 この女はまだいける。
 とか思って酷い目にあった諸氏は多くいると思われる。

「緑色の坂の道」vol.2893

 
     真夜中の色。
 
 
 
■ カードのデザインをしていたらくたびれた。
 NY「甘く苦い島」から一枚。
 これを6色印刷で出力する。
 技術的なことは省くが、つまりは画面で眺めているものとほぼ同じ色合いに出ることになっている。
 
 
 
■ 電卓を叩きながら、0.001ミリまでの位置合わせをしていた。
 ここを読まれている読者には直接関係がないことだが、デザインというのは構造的な部分があって、全ては基準になる線がバランスを取っている。
 永く眺めていて飽きないものというのは、大体が端正なつくりをしている。
 余分なものが少ない訳だが、良質のコピーも同じことなのだ。
 
 
 
■ 何度も印刷をする。
 とあるプリンター・メーカーから貰ったインクジェットと、インクがダースであるのだが、こういう場合は使う気になれない。
 せんだって借りていたカラー・レーザー・プリンターがあると便利だとは思う。
 いずれにしても、出力の機器は一年に二回程変わる訳だし、いちいちそれに合わせてはいられないというのが私の立場である。
 液晶モニターで、写真の加工をしている写真館があったら、それは嘘だというように。

「緑色の坂の道」vol.2892

 
     十二月。
 
 
 
■ は、タイムズ・ニュー・ロマンのフォントで記載されるべきね。
 と言った編集者がいた。
 気の利いたことを口にしただけなのだろう。
 高いスーパーで、彼女はハーブを買っている。

「緑色の坂の道」vol.2891

 
     冬の青い光。
 
 
 
■ 今年のイルミネーションは、青と白なのだという。
 縦に長い窓から、六本木の方角を眺める。
 アルミに青色のビルが見えている。
 美術館の上に会員制のサロンがあって、小型車二台分の入会金だとか聞いた。
 ゴルフの会員権よりは遥かに安い。
 私はその下のスーパーで、398円のフライパンを買った。
 
 
 
■ 大人がつまらなくしているような気がする。
 屋上にある、誰も入ることのできない施設の庭が黒い。
 その向こうに、警備員がライトを廻しているのが時々うつる。