雨のまえの満月。
■ トラックに囲まれた渋滞だった。
この時間にと訝しいが、月末の補修工事が続いている。
私は中森明菜さんの曲を真面目に聴いていた。低音から震えていく流れがいい。
富士や青森のナンバーに囲まれて、長距離の彼らは何の音を流しているのか、最近はサイドのマーカーも輝度の高いLEDが主流である。
空は曇り、薄い雨がフロントガラスに零れる。
国文を出た彼が明菜のファンで、青山二郎と小林秀雄、それにまつわる女のことを熱心に語っていたことを覚えている。
■ 一度、相手の男性に洗車場で会ったことがある。
彼はメルセデスのワゴンを洗ってもらっていた。私は、ガラスで仕切られた喫煙の場所に引っ込み自分の順番を待っていた。髪型は前と変わらず、媒体で見るよりも実物は幾分小柄だった。筋肉が硬い。隣に座っている妙齢本格派が多分事務の役をされている。
その後赤坂界隈のホテルで擦れ違ったこともあったが、印象は変わらない。
■ 渋滞を抜けると、トラックもトレーラーも先を急ぐ。
私もギアをひとつふたつ落とし、少し廻し気味にしてやる。
黙っていれば静かな花のように演じられるものの、笑うときは顔全体が口になってしまうという、そのどちらも彼女なのだと誰かが書いていた。