海にいる白。
 
 
 
■「白鯨」の訳は比較的新しいものだった。
 00年代、解説を書かれた方が手掛けられているようである。
 それ以前、やや古典的な言葉遣いのものも読んでみたいと思っているのはどうしたことか、得体のしれない作品世界に魅入られつつあるのかと苦笑いした。
 こう書いていること自体ほぼ駄目であって、その後の展開は何年越しで、という按配になるのだろう。
 


 
■ 一般にこの作品は、男色文学の要素も強いと評されている。
 異邦人の男と同じ寝台で同衾する場面が比較的冒頭に出てくるが、不思議に幸せそうで、読み進めていくうちに白い鯨自体がある種のシンボルであるかのように扱われてゆく。それは白人世界であったり、アメリカという国家の話だと読み解く人も少なくはない。
 鯨油に対する描写。これは多分その気配のある方には、背中を小指でなぞっていくような信号になっているのかと思う。
 
 
 
■ おしゃべりなカポーティが若かった頃の写真。
 額が大きく、髪を横に分けて小柄な身体でポーズをつけていた。
 古い友人にそっくりな男がいて、今は教壇に立っているのか専攻は仏文だった。
 脈絡もなくそんなことを思い出していたのだが、「白鯨」をメルヴィルが書いた10年後、アメリカでは南北戦争が勃発する。内乱である。
 その時の死者数は、確か近年のいくつもの戦争における合衆国の戦死者数の合計を、遥かに上回っていたはずである。