真横の月 6.
■ なにもない荒野みたいなところを一台の車が走っている。
舗装だけはしてあって、日は暮れかかっている。
強力なドライビング・ライトが路肩を照らす。
■ 陳腐な想像力と笑われるかもしれない。その通りである。
冬の中の旅というと、どうもそんなイメージが私にはあった。
あるいは、入ってはいけないことになっている埋立地であるとか、引込み線の脇あたり。
外に出れば寒いのだろう。
吹雪で前も見えない本当の北国ではないところが軟弱だった。
そこでは、やや旧い車というのは怖い。
バッテリーを温めねばならないデジタル一眼も、別の意味で安心して使えない。
■ いつだったか地方都市のガス・スタンドで、一枚のポスターを見たことがある。
クラシック・ミニのクーパーが交差点で停まっている。
多分クーパーだと思うのだ。モンテ仕様のフォグがフロントに並び、屋根にはキャリアが組まれ小さな鞄が乗っていた。
ポスターの中には雪が降っていて、路肩は灰色に溶けたそれで汚い。
オイルの広告だったと思うのだが、あの小さな車で、10インチで、すこし旅をしていた人達がいたという設定である。
オイルは鉱物油だったろう。
ミッションと一緒だから、5リッターは入っただろうか。