真横の月 5.
 
 
 
■ 女の好みは変わるが、車のそれは、気がつくとそれほどでもない。
 バブルの最中、サーブはやや持て囃されたこともあって、ちょっとスノッブな若夫婦などに好まれた。
 幕張やその手前のマンションが新しかった頃である。
 それは文化的な流行と呼んでいいものだったが、その後は本当に好きなひとが毎日の脚として使われていたような気配もある。
 順当に消費され、次第に数は減っていく。
 
 
 
■ 絶壁のターボ辺りになると、これはとうにコレクターズ・アイテムで、建築家やGデザイナ辺りが大事に保管していた。彼らは一般に道具に凝る。
 新宿近くでみかけたそれは、何故だか分からないが、演劇関係の方のものではないかという気がしていた。
 全く理由などないのだが、自らが手がけた脚本を鞄に入れた白髪の方が、MTG(打ち合わせ)にきて停めているという風情だろうか。
 そういった勝手な思い込みというか物語のようなものを醸し出す車というのは、数える程しかない。