あずさ弓 2.
 
 
 
■ カーメン・ブラッカーさんの「あずさ弓 - 日本におけるシャーマン的行為」という本がある。1975年刊。訳者はユング派で知られる秋山さと子さん。
 ちょうど1960年前後、ブラッカー(敬称略)は日本各地の霊場なり修業の地を訪ね歩いた。
 厳格な意味でのシャーマンは、シベリアと中央アジアに顕著にみられる宗教現象であり、呪術や呪術治療とは一線を画した「脱我の技術」とされている。
 もちろん今の日本には残っていない。
 ブラッカーは、その残滓をたんねんに拾い集めていったのである。
 
 
 
■ 恐山やその周辺にいるイタコのことは一章をかけて論じられていた。
「盲目の霊媒」と題されたそこでは、これが東北地方一帯で職業的な存在として認められていたことを記している。不幸にして盲目となった小さな女の子が、師匠の元へ弟子入りして修業し、一人前となる。社会的自立を促す側面と、地域共同体の中での神や霊との触媒役を担っていくのである。
 これも60年前後だったと思うが、とある大学の研究室がイタコの生態を調べたという記録があった。どういう経緯でイタコになったか。普段は何をしているか。配偶者がいるのかどうか。彼は何をしているか。
 呼び出した霊との会話もテープに記録され、文字として起こされていた。
 
 
 
■ ブラッカーの書によれば、恐山にテレビが入ったのは1959年だそうである。広い駐車場が作られた。観光バスが通う。
 当時は秘境ブームだった。日本の辺境にスポットがあたる。
 ここで脈絡もなく思い出すのが小林旭の「渡り鳥シリーズ」である。