大師のデミオ 4.
■ 空港の方角を眺める。
なにもない空間が広がり、半分は水なのだ。
W1Sは右足がギアになっている。慣れないうちは誰しもが戸惑う。
私はメイン・スタンドを外していた。ただでさえバンクが浅く、思い切り倒すとアスファルトに触れすぐに火花が散った。
加速する。八○まで引っ張ってブレーキをかけた。
振れもせず、このままゆけるようだ。
天現寺の傍のスタンドで有鉛のガソリンを入れた。空気を確認し、ワイアーにCRCを吹き付ける。スタンドの若い者が遠巻きに眺めている。
タワーの前を曲がり、新橋の釣り具屋にいった。ジャケットとオイルライターをふたつ買う。その脇のペンキ屋でつや消しの黒いスプレーを求めた。
産業道路に廻り牛丼屋に入る。
特盛を頼み、卵を入れ五分で食った。
サービスの券を貰ったが隣にいた白人にやった。彼はなまりのある英語で礼を言う。英会話学校の講師のようだ。
大井から高速に乗り横羽線に入った。多摩川を渡ってすぐのパーキングに一度停め、黄色のジャケットに黒いスプレーを吹き掛けた。乾くのを待ち、皮のジャンパーの上に羽織ってジッパーをあげる。
橋の上から遠い東京がみえる。
川向こうだ。
いくつもの点滅する灯りがあり手前には空港がある。風も強い。
海は何処なのか、と思うのだが、入り組んでいて定かではない。
人気のないことを確かめ、W1Sのティクラーを押し、ガソリンをビール瓶に詰めた。ガムテープで蓋をする。ライターを縛り付けた。
メッキに黒のタンクは、これで相当軽くなった。
晃子に電話し、C突堤にゆくのだと言った。