蛸と芝居は血を荒らす 3.
■ ここから明治期の落語の大家、芸風の好みに移る。
小島は書く。
綺麗サッパリとした芸人よりも、彼(註:万太郎)はややいやみが匂うか匂わないかの芸人の方を好く傾向があった。例えば円喬と円右。二人とも、明治の落語の大家だが、万太郎に言わすと、円喬よりも円右の方に点を入れていた。
私に言わせると、比べ物にも何にもならないくらい二人の技術には本質的な差があった。円喬は名人。円右は上手。そうしてちょっといやみな芸だった。(前掲:265頁)
■ ここから1-2頁ほどは小島の万太郎論の白眉である。
生まれと育ちについては、先の俵氏の本でも朋友林氏が直截に書いているが、本質的に垢抜けない部分が万太郎にはあったのである。
勲章というか官位や肩書が大好きだったり、それを記した名刺を配ったり。
訳ありの人のもの(この場合は女性)を欲しがったり。どうしても花街の人でなければならなかったり。
当時の芸妓というのは、今でいえば何にあたるだろう。
差しさわりがあるので書かないが、案外に政治に近いところがある。
もうひとつは時代の変化である。