たかだかと
    あはれは三の酉の月。
 
 
 
■「三の酉」は見事な花柳小説である。
 過剰に歌う部分が削ぎ落とされた、万太郎晩年の傑作という評価も、その通りかもしれない。
 また、震災の影がその奥に冷たい水のように通底していて、私はなんとなく泉鏡花の「十六夜」という短編集を思い出していた。
 唐突に切断された一本の線のあとさき。
 その後の空白のようなものである。
 
 
 
■ 芝居がひけた後、向こう側に成瀬先生がおられた。
 グレーの薄いコートを羽織られ、ちょっとばかしダンディである。
 私は鉛筆を嘗めながら、アンケート用紙に記入をしていた。
 お煎餅はどうにか嫁いでいる。