終幕の思想 2.
■ 教訓めいたことを導くのは野暮なのでやめにするが、北川さんもあとがきに書かれているように、これはほぼ演劇の戦後史である。
時系列になっている訳ではなく、順番なのだけれども。
私が興味深かったのは、花柳章太郎さん、初代水谷八重子さん、それから長谷川一夫さんに越路吹雪さんなどだった。
前の引用では略したが、新国劇の辰巳柳太郎さんも84歳でお亡くなりになっている。
この方も不器用だが味のある演技をされる方だった。
映画では川島監督の「わが町」での演技が忘れがたい。
■ 舞台写真で眺める初代・水谷八重子さんは、細面の美人である。
ところが素顔というかそうでもないところは、マダムのような眼鏡をかけた妙齢本格派で、ああこの方がという感慨が深い。麻雀も強かったという。
何故だかわからないが書棚の奥に毎日新聞社発行の「別冊1億人の昭和史/昭和舞台俳優史」というものがあって、奥付が昭和53年である。
ジャーナリズムの観点からまとめた入門書というか、半ば辞書のようなものだろうか。写真が多くわかりやすい。
■ 北川さんの本を読んでいると、初代水谷さんが舞台に立つと「じわがくる」のだという。
立っているだけで観客席にざわざわと溜息が流れるというか、空気が走るのである。最終的には、秋の日のビオロンの、といった按配だろうか。
その気分は分からないでもない。
間というかただの風情なのかもしれず。
ただの、と書くことはもちろん思い上がった気分なのだけれども。