ダマスカス。
■ わかりやすく車の話に流れる。
例えば英国の小型スポーツカーというのがあって、旧くはミジェットやMG-B、エランなんかが代表である。
ややざらついているというかマニア受けするのがトライアンフで、TR-5なんてのは今乗っても結構速いだろうという気もした。
ローバーにV8を押し込んだデヴィスという車があったが、これも英国特有のバーバリズム溢れた車種で、S30の240Zに無理やり3.5リッターを積んだ感じと言えば分かる方には分かるかもしれない。
現行のZに6.3リッターみたいなものである。
■ 界隈にベントレーが何台か停まっている。
時々ロールスなんかもみる。
もちろんアストンも屋根のある奴ない奴、時々すれちがったり隣に蹲っていたりもするのだが、考えてみるとこれらは皆とうに英国資本ではなくなっていた。
いわゆるプレミアム・ブランドとされる高級車の世界では、俺はこうだ、という世界観を前面に出していかないと埋没してしまう。高いことに説得力が乏しくなる。
0-100が4秒台に入ったり最高速が300を超えたとして、ほとんどそれは誤差のようなものだろう。
使われているパーツや設計その他はグローバルな要請を経てきたものであっても、結果として製品が醸しだしている雰囲気や手触りというものは、不思議に懐古的なナショナリズムの匂いがその底から立ち上っているかのような気さえする。
ナショナリズムと書いたけれども、平たく言えばそれは「帝国」である。
その中の階級や階層を懐かしみ、時代に即しつつ再構築していく。
■「アラビアのロレンス」という映画があるが、ここでは車と単車が象徴的な存在として登場していた。
砂漠を走るロールスの9輪装甲車。その上で刀を振るT.Eロレンス中佐。
彼は晩年シルバーゴーストを欲し、退役後ブラフ・シューペリアという単車で事故を起こして死ぬ。シューペリアは二輪のロールスと呼ばれた品質の高いオートバイである。
デビィット・リーンによるこの映画は、真面目に語るには本を数10冊読んでから、車を意味なく数10万キロ程走らないと分からないところがある。若いときにはその表層しか視えていなかったような記憶がある。
いずれにしろアラブ独立戦争を舞台にはしているけれども、その本質は帝国主義の時代、そこに登場するトリックスターの物語ではあった。