退屈な儀式と夜について 2.
■「夜の魚」の一部にこんな場面がある。
私は時計台の前、四丁目の交差点を渡り人混みを越えた。
警官が立っている。階段を降り、黄色い電球の地下にもぐった。
指定されたブロックを捜す。一番奥まった一角に車があった。
クリーム色の、丸目のカマロだ。
なんだか溜め息がでる。これでどうしろっていうんだ。
重いドアを開け、それは案の定下がっていたが、エンジンをかけた。
馬鹿みたいにでかい音がした。ハンドルは小さく、黄色い目玉、「ムーン」のホーンリングがついている。
ボンネットの上にバルジがあり、蓋がしてある。ガラスの汚れから車自体は暫くここに置いてあったようだ。オイルが廻るまでの間、ウォッシャーでガラスを洗った。
右手のシートの上に皮の鞄があった。外側のポケットに簡単な地図とメモ、携帯電話が入っている。中には充電器もあるようだ。
「東金に葉子はいる。アルピーヌもあるのだが貸してやらない。銃はそろそろ分解しろ」
メモにはそうあった。こういうメモを残す男の年齢を当てるのは簡単である。あの頃の残りなのだ。