退屈な儀式と夜について。
 
 
 
■ ちょっと飛ばすと、ダッシュのあたりからキシキシと音がした。
 夏の頃合修理に出したのだが、名人と呼ばれる方の弟子が専用工具を使い忘れ、ダッシュとメーターパネルの辺りを痛めたのである。
 クレームで交換してもらったのだが、専用部品だからびっくりするくらいの金額で、向こうから取り寄せるのに数ヶ月かかった。
 色が渋く、馴染ませるのに光沢の出るシリコンを塗って一月ほど。
 一度分解すると、どうも建付けが悪くなる。
 どうしたもんかいなあ、と思いながら首都高速のPAに入った。
 
 
 
■ 外気は2度である。
 いつもの方々はおられず、初代のGT-Rが数台。RB26の方だが、これももう20年は経っている筈だった。
「キリン」という名作があるが、そこに出てくるのが930のカレラとこのRである。
 私は考え事をしていた。
 今の企画書はともかくとして、なにかもう少し先のことを考えようとして分からなかったのである。
 
 
 
■ 久しぶりに自分の車に近づくと、薄っすらと埃を被っている。
 関東は今の季節、粉を吹くほど乾いている。
 それでもガラスの辺りには白い膜のようなものが一枚被っていた。
 ドアを開けエンジンをかける。アイドルが安定するまでの間、トランクに閉まってあるペットボトルからウェスに水を含ませガラスを拭いた。