老齢は難破船のようだ。
■ ドゴールの言葉だという。
ジョン・ルカーチの「THE DUEL」(邦題:ヒトラー対チャーチル)という本をぱらぱら捲っていた(共同通信社発行:95年:秋津信訳)。
1940年のわずか80日間に限定してこの二人を対比させた歴史書であるが、単なる歴史物の範疇を超え、いくつか示唆に富む箇所があり読み応えがあった。とりわけ、人物像への深みを伴った直感的な評価である。
その文学的表現から英国人であろうかと思ったが、ルカーチはブタペストの人。
ヨーロッパの最良の伝統主義の守護人として、ルカーチはチャーチルを位置づけている。
一方、ヒトラーは革命家であると。
「ヒトラーは絶望を背負った男だった。だが、同時にそれまでにない、冒険と科学の新しい世界の予言者だった。チャーチルは、伝統的で時代遅れの世界の価値を守る役割を担った。進歩を叫ぶより、西洋文明を守る立場をとった」(前掲:328頁)
■ 末尾の言葉が印象的である。
「二十世紀も半ばに近づき、近代が終わろうとする頃、世界の命運をかけた対決で、偉大な政治家が偉大な革命家に勝利を収めたのは、当時も今も勇気づけられることだ。第二次大戦中、著作家が演説家に、世界主義者が人種主義者に、愛国者が国家主義者に勝った。この戦争は何百万もの人にとっては大きな災厄だったが、その結果、世界はそれ以上にひどい災厄を免れたのである」(前掲:329頁)