風景と男と 3.
 
 
 
■ 後期型の500Eには暫く乗った。
 始めにEがついている方が初期型だとか聞いた覚えもあるが、ま、そこは流れで。
 もちろん借り物だったが、アクセルを床まで踏んだ時の水平移動の感覚が忘れがたい。
 氷の上で金庫を滑らせているかのような、止まる時も僅かに甘い感じは残っていた。
 くるくると廻るステアリング。ボール・ナットの精度。
 右から左へ移動する。燃費がどうという世界とは無縁なのだが、これはまだ私ごときでは飼いならせないなと思った覚えがあった。
 
 
 
■ 性能のことを言っているのではない。
 例えば今のスカイラインの3.7リッターは0-100が5秒台である。
 同じエンジンを積んだ個人タクシーは夜になるととたんに繁殖し、急な坂道を結構なペースで流していく。
 500Eの加速はそれにはとうてい及ばないのである。