赤線オペラ。
 
 
 
■ 客と娼婦のやりとりをオペラにしようという話があったのだそうだ。
 阪田寛夫氏と服部良一氏が発起人だそうである。
 この名前を眺めていると、さもありなん、とうなづく方もいるやと思える。
 
 
 
■ まあ、ここからが本題。
 これらの素案を酒場で話していると、ホステスが味のあるやり取りを挟んでゆく。
「高かないワヨー、聴いてゴクラク、見てジゴクというじゃないのヨーオ」
「だって七百五十円しかないんだヨーオオ」
「泣くことないじゃないのヨー」
 金のない男が夜の巷をうろうろしているのである。
 
 
 
■ つまり、切迫してくると人間の元々の部分が顕れてくる。
 吉行さんは別の処でこのようにも書いている。
「おまえバカだなあ、あそこは冷たくされに行くところじゃないか」
「女にあたたかくされるに越したことはないのだが、冷たくされる場合もしばしばあって、大袈裟にいえばそれをうまく受けとめることによって人間としてのフトコロが深くなるのだ、という意である」
 そこまで書くと一般教養のような気配も浮かぶが、大筋ではそのように言って差し支えなかろう。
 ここはセンスの良い女性が多いので、このオペラはまた違った展開をみせるだろうと思う。
 
 
○「緑色の坂の道」vol.1573
95年3月