■ 外は雨が降っている。夏の雨だ。
 上海大厦は冷房の効きが悪かった。改装する前のニュウ・グランドの旧館のように、外付けのダクトが壁を張っている。
 私たちは寝ることにした。
 時間をかけ、こわばっているものを内側からほどこうとした。
 葉子は低い声をだした。暫くそれは続き、挟みつけては首を傾けた。
 
 葉子に色がなくなっている。
 原色の断片が背後に退き、半透明のベールのようなものが皮膚の上を覆っている。
 汗に過剰な密度はなく、跳ね返してくる胸の張りの中に柔らかさが混じっている。
「わたしね」
 葉子が低い声で言う。
「わたし、このまま歳をとってもいいと思っているの」
 動きを続けた。一点に加える圧力は何かに遮られ、芯のようなものにぶつかる。そのままにしていると、もうひとつ口を開き、別のものとなって包み込む。
 私たちはそのまま眠りについた。