三三 銃撃
■ 音楽が変わった。
フロアに何人かのダンサーが飛び出てきた。
テンポの早いシンセ・ベースのボリュームが上がった。
気がつくと北沢の背後には男がふたり立っていた。
黒っぽい背広を着て、片手を上着の中に突っ込んでいる。護衛がいたのだ。
北沢が軽く手を挙げる。男達が一歩後ろに下がる。
「まあ、そういう訳で、躯に気を付けてください。日本に帰られて安売りのチラシでも作っていれば長生きもできます」
薄い唇で北沢は笑った。
照明の加減で額に白い傷跡があるのがわかった。眉毛のすぐ上だ。昨年の冬、横浜港でのバトルの際、奴は額から血を流していた。
私は椅子から立ち上がった。背中をむけ、帰ろうとした。幾つかのミラー・ボールが天井で廻っている。ホールの中で客も踊りだした。
「残ってるな」
私はふりむいて、人差し指で自分の眉の上を指さした。
北沢の顔をみる。
どんな表情をしているか確かめようとせず、私は出口の方に急いだ。
走羽が脇に寄る。
「こっちです」
走羽は中国服の女をつきとばし、エレベーターの奧にある通路に入った。
ドアを開ける。音楽が遠くなる。
「奴等は追ってきます」
非常階段がある。
灰色の鉄の階段を私たちは駆け下りた。
男が飛び出てくる。先ほどの奴等だ。
短い音がして、手摺に火花が散った。
撃ってきている。