■ 走羽が腰を屈めベレッタを発射した。
 私も背中から抜き出し右手に握る。安全装置を外した。
 走羽がもういちど連射する。
 肉に銃弾が埋め込まれる鈍い音がした。
 ひとりが倒れる。
 階段は裏手の路地に繋がっている。あと一階だけだ。
 路地の方角から新たに三人の男が走ってくる。
 大型の爆竹に似た音がして三人の男が銃を発射した。
 トカレフのようだ。
 私たちは挟まれた格好になった。
 
「右」
 走羽が私に指示する。
 私は右手に走る男を撃った。
 男がうつぶせに倒れるのがみえた。
 小さめのドラムを忙しく叩くような音がした。
 白い光が視界に入る。
 階段の上にいた男が崩れ落ちる。悲鳴ではなく、動物が潰れるときのような声を出した。
 イングラムだ。走羽は上着の下に小さな機関銃を隠していたのだ。
 非常階段の出口には柵がしてあった。飛び降りるしかない。
 走羽が顎でうなづく。イングラムを路地に向けて発射し、威嚇した。
 私は膝をついて路地に転がった。走羽が続いて飛び降りる。
 ジャガーのある方角へ走る。
 夜の四馬路は人波が分かれ、悲鳴がいくつかあがっている。
 上海夜星の前から一台の車がバックするのがみえた。
 通行人がはじき飛ばされ、短くふわりと浮いた。
 北沢だ。
 私はEタイプのドアを開けようとする。
 鍵をかけていることに気づき、舌打ちをした。
 
 その時、視界の端に黒い服の男がみえた。
 白い光が広がり、私は心臓の上を強く殴られたような気がした。
 撃たれたのだ。
 よく息ができない。大きく口をあけている。尻餅をついた。
 走羽が左手を伸ばし、イングラムを連射している。私を撃った男は歩道に崩れた。
 イングラムのマガジンを取り替え、走羽は私の手を引いて起こした。
 車に乗り込んだ。
 ハンドルをつかみ、短く息をした。
 アクセルを床まで踏み、四馬路に飛び出した。