■ 着替えて浴室から出ると、走羽と葉子が銃のサイトを外していた。
脇には黒いナイロンベルトがあり、ベレッタ用十五連発のマガジンが何本か入っていた。
「これを着てください」
いつ用意したのか、走羽が薄くて黒いチョッキを私に差し出す。
「ケブラー製の防弾チョッキです。ショットガンと九ミリまでは大丈夫」
手に持つと案外に軽い。黒いポロシャツの上に羽織ってジッパーを上げてみる。
「麻のベストにはみえないわね」
葉子が傍によってポロシャツの襟を出してくれた。
ケブラーというのはガラス繊維だという。刃物には弱い。それを防ぐには薄い鉄板を縫い込むことになるが、僅かに重くなる。生地は防水になっているが、水を含むと防弾力が極端に低下する。
走羽の渡したものは鉄板を含んだものではなかった。
暑いが死ぬよりはマシだと考えた。昨年、横浜港で北沢に撃たれたことを覚えている。熱さの後で鈍い痛みが長く続く。
煙草を何本か吸い、ゆこうかと立ち上がった。
葉子を呼び、背中にゴミがついていると教えた。
「なあに」
と後ろを向いたとき、手首に手錠をかけた。
「なにするのよっ」
もう片方にも手錠をはめ、椅子の背もたれに紐で縛った。ベレッタの入った葉子のバックからEタイプの鍵を取り出した。バック自体は離れた棚の上に置いた。
手錠の鍵はすこし開いている窓から捨てた。
「ばかっ、はずせないじゃないのっ」
ばたついている脚の奧から下着がみえている。
騒いでいる葉子を後に私は部屋を出た。
エレベーターを待つ間、走羽が尋ねる。
「どこで手錠買ったんですか」
「豫園のとなりの自由市場」
走羽が笑い、私たちはのろいエレベーターに乗った。