二八 ベレッタ
 
 
 
 
■ 葉子の運転で浦東に戻った。
 北沢からの封筒については話さなかった。
 耳鳴りのしない新型のエレベーターの中で、葉子の中国服のスリットを触る。柔らかい絹だ。
 葉子は鼻を上にむける。
 父親が入院してから、葉子は箱のような部屋に眠っていたという。最上階にあるペント・ハウスから螺旋の階段を降りたところにある。囲まれているような気がして安心するのだと葉子は言う。
 後でゆくと言って、私は三十二階に降りた。
 ところどころに非常灯のついた廊下を歩く。事務所のドアを開けた。鍵と暗唱番号の二重構造になっている。
 空調のスイッチを入れ、ブラインドを締めた。昼間は対岸から透かしてみることの出来ないガラスが貼られている。
 み慣れたパソコンが何台か並んでいる。考えてみれば、日本からサブノートを持ってくる必要はなかったのだ。全体がプラスチッックでできた回転椅子を引き出して座る。
 十時五分前になった。
 ドアの後ろに微かな気配がした。気配は一度離れ、それから戻った。腕時計をみていたのだろう。僅かな間があって、ドアがノックされた。
 黒いナイロンザックを肩に走羽が立っていた。