■「二分前だぜ」
「ええ。英国では招かれた時間の二分前にドアをノックすべきだとものの本には書いてあります」
走羽は細い眼でにこりともせず言った。
私はこの男となら一緒にやれるだろうと思った。
部屋に入ると、走羽は灰色の不燃性絨毯にザックを落とした。音を立ててジッパーを開ける。中に手を入れ、重さあるものを取り出してゆく。
「まずはM9」
拳銃だ。走羽は本体を右手に持ち、黒いナイロンのベルトから弾倉を引き抜いて銃に押し込んだ。銃口を私にむけ、それから降ろす。
「使い方は知っていますね」
「眼をつぶって引き金をひくんだろ」
「そうとも言えますが、それは精神論です。撃ち方は後で教えます」
ゴトリと音をさせ、ネットワークのハブが繋がる大きな机の上に走羽は拳銃を置いた。私は手を伸ばす。記憶にある中国製トカレフ、通称ブラック・スターよりもほんの僅かに軽い。
「ベレッタM92SBーF。M9オートマチック・ピストルです」
走羽も椅子に座り、黒い上着から煙草を取り出して火をつけた。
「中国製じゃないんだな」
「ええ、あれは安心して使えない。これは米軍制式採用になっています。十五発、ダブル・アクションで引き金を引くだけですぐに撃てます」
「ふうん」
映画でみたことのあるような拳銃だ。上の部分に切り抜きがあって、赤い色がみえている。弾があることを示すのだろう。
「M9は二丁あります。弾薬は九ミリ。あなたと葉子さんが使って下さい」
走羽は葉子のことを知っていた。