■ これも上海という街だ。ありそうにないことが現実に起きる。
「なんだか頭いたいな」
 私は風呂を借りることにした。
 頭に巻いた包帯がじゃまで旨くゆかなかった。
 どうすべきか考えていると葉子が入ってきた。
 私の頭に器用にテーピングをし、傷の部分が濡れないようにしている。髪の毛が貼り付く。こんなに世話する女だったかなと不思議におもった。
 私の背中を流しながら葉子が言う。
「ねえ、冴さんていうんでしょ」
「う」
「すこし惚れたんでしょ」
 女が優しい時というのはたいていがこんなものだ。
「まあ、いいわ。それでわたしに触る気はあるの」
 そう言って、葉子は浴室を出ていった。
 新しい下着が用意されていた。漠然としていると葉子が笑った。
「いいから、すこし眠りなさいよ」
 私はそれに従い、高層ビルの天辺に突き出ている箱のような部屋で眠ることにした。
 
 途中、ランニング一枚でビルの上から飛ぶ夢を視た。その下はつけてない。背中に羽は生えていず、落ちてゆく間びっしりと汗をかいた。