■ その夜、私たちは寝なかった。
 五十五階の広いフロアには隠されたドアがあって、その中は螺旋階段になっている。
 降りてゆくと小さな寝室のようなものがあった。小さいとは言っても私の個室よりは広い。
 誰のためのものなのか、普段使われている形跡はなかった。
 寝室に備えられた浴室を使い、躯を流した。上質な絹でできたガウンを羽織った。
 
 この部屋には小さな窓しかない。ベットはふたつに分かれているが、ラバーの中には水が入っている。ウォーターベットである。硬い水なのだと私は思った。
 葉子に化粧を落とすように言った。
 部屋を暗くし、私は酒を嘗めていた。葉子の頬と耳たぶに触り、ぼんやり煙草を吸っていた。
「むこうで誰かと寝たの」
「ああ」
「そう。なんだか安心したわ」
 そうかな、と思ったが黙っている。葉子の躯はまだ硬い。