十八 蝋人形
 
 
 
 
■ 私は上海にゆくことにした。
 葉子とは連絡がとれていない。
 私は数日を忙しく過ごした。コピーをいくつかと付随する資料をまとめ、担当者と打ち合わせを繰り返した。
 結局、上海にある電視塔の写真は使わなかった。砂紋がはっきり写る砂漠の写真を借り、横書きで文章を置いてゆく。余白を大きく取り、ボディコピーと商品である容器の写真を幾つか並べた。
〈水をくるむもの〉という言葉を途中に混ぜる。そうしたシリーズで続けようという下心だ。どうなるかはわからない。とりあえずは無難なものから始めることにする。
 
 週末の夕方、私は晃子と吉川に会うことになった。芝のタワーの傍にあるボーリング場、そこのロビーで落ち合うことにした。
 グラウンドがあり、ガソリンスタンドがあり、プラタナスの街路樹があった。エンジンをかけたままのタクシーが並んでいる。運転手が仮眠をとっている。ボーリング場の階段に立っていると、バックを持った中年の男や若い女が入ってゆく。靴と自前の玉を持参しているのだろう。そうした情熱はどこからくるのか、人事ながら不思議に思った。
 
 吉川が汗をかきながら歩いてきた。麻の上下を着ている。とりあえず誉めると、イタリアで買ったものだと自慢する。太る前だったらしい。
 タクシーで晃子が着いた。せっかくだからタワーにゆこうと言う。私たちは坂を裏手から昇り、タワーの足元に建っている古いビルの通用口から中に入った。
 並んだ土産物屋の奥に、コーヒースタンドがあった。私たちはカウンターに肘をついてコーヒーを頼んだ。私と吉川はケチャップの沢山ついたホットドックを食べた。
 観光バスのガイドが隣に立っている。店の人間と話しながら煙草を吸っている。定期的に来ているのだろう。蓮っ葉な雰囲気が良かった。制服の腰を振り、向こうに歩いていった。