■ 関東で梅雨が明けたというニュースが流れていた。
 私は自分の部屋でビールを飲んでいた。電話が鳴る。男の声だ。
 
「冴さん、中国名葵さんが襲われました。千葉県H市の病院に入っています。数人に暴行され大量の覚醒剤を打たれている」
 声に覚えがあった。横浜の黄金町、奥山が隠れていた部屋で私はこの男の電話を受けた。彼は私に協力を求めた。
「いつですか」
「昨夜です。彼女は勤め先の店が終わり、部屋に戻るところを拉致された。臨海公園があるでしょう、あそこの植え込みに倒れているのを今朝発見されたんです」
「どんな様子なんですか」
「かなり悪い。覚醒剤と言っても粗悪品を使っているらしく、時々心臓がとまったりしています」
「わかった、これからゆく」
「いや、結構です。病院の廻りは網を張っていますから、あなたに今来て貰うと困る」
 男の声は事務的だった。
「それはそうと、葉子さんのお父さんの車が爆破されたことをあなたは知っていますか」
 私の酔いは醒めた。
「あなたの所属はどこなんだ。警察か厚生省か、それとも公安なのか」
「最後のところに近いですね。明日の午後、迎えを廻します」
 電話が切れた。