十五 夏日
■ 十日程過ぎた。
江菫が東京に来ている。
吉川を騙して呼び出し、暫く安全に働けるような店を紹介させたのだ。
「うちの社も上海にはビルがある。友好のためには仕方ないな」
何をするにも大義名分が必要な世代である。
新橋と銀座の境、小さなバーに江菫は働くことになった。
一度顔を出してみたが「野郎ども地獄へゆけ」といった案配のママが、ひらひらした服でだみ声を出していた。私は意味なく怒られた。
引退間近の役員などが主な客層で、彼等がポケットマネーで飲みにきているようだった。
白金にある木造のアパートに江菫は住むことになった。だみ声のママが家主で、扇風機しかないという。家賃は天引きされる。
吉川は毎晩顔をみせているようだった。護衛のつもりなのだろう。
「晃子さんには言うなよ」
と私を脅すが、晃子には喋った。
「どいつもこいつも」
晃子は貫禄が出てきている。