■ 触れるべきなのかどうか、俄にはわからない。
 冴が尻を向け、横にすわった。枕元のスイッチを廻し僅かに灯りをつける。
 
「買ったおんなのことを考えても仕方ないわ」
 それはそうだ。冴が横になっている私の足元に顔を寄せた。膝頭から始まって踵に遊び、足の指先がぬるくなった。それが上にあがる。細かな舌だ。
 私は冴の腰のあたりに手を置いた。
 どれくらい経ったのだろう、あらかじめ緩いものに入ってゆく。途中で一度細くなり、その上には僅かな空洞とざらついた感触がある。
 冴はほとんど声を出さなかった。醒めている訳でもない。しかし、沸いてくるものの密度に薄い空白があるような気がした。
 細い腰は奥の方に弾力があり、ふたつに折れて開かれる。
 
「いいの、そのまま」
 耳元ではっきりした声を聞いた。私は彼女の足首を掴み、深いところを探ろうとした。
 躯を離すと一度に汗が出た。
 
 冴が腰を屈め、奥からのものを始末している。
 私は上海で女を買わなかった。歩いているだけで声をかけられることもあるのだが、迂闊に乗ると公安が控えている。あらかじめ繋がっている場合もあるという。どれくらいの罪になるのか、日本人の場合、他の事情も絡むのだと聞いた。
「野鶏(ヤーチー)か」
「そう、わたしは野鶏なの。満足して貰えたかしら」
「久しぶりなんだろう」
「あら、わかるの」
 冴が笑って起きあがった。黒いバックから小銭入れを出し、硬貨を冷蔵庫に入れてゆく。新しいビールを抜きグラスに注いだ。
「北京から上海に逃げてね、一度地下に潜ったの。売れるものは女しかないわ。日本にくる旅費もね」
「うん」
「なんだかおかしいわね、こんな話をして。でも、あなたってどことなく裏街道の匂いがするのよ。寝てみてはっきりしたわ」