五九 秋月
 
 
 
 
■ 脚の方から落ちた。そのままかなり沈んだ。
 葉子の手は離れた。
 水が明るい。イロコイの破片が落下してくる。
 濁った水の中を泳いだ。浮上する。
 上空には爆発のガスがまだ残っていた。黒煙がひとかたまりになって、厚い雲のようにみえる。
 葉子の顔を捜した。波間に白い顔がみえた。手を伸ばして近づく。
 ハインドが空中に停止したままスポットを照射している。捜すつもりなのだ。
 スポットは斜めに近づいてくる。
 
 私は口を開け夜の空をみあげていた。
 黒煙はゆっくりと去り、斑に糸を引いた雲の上に明るい月があった。
 右手には旧租界地帯の建物がみえる。左の東方明珠は何本ものスポットを空に向け交差させている。空の赤い反射は炎上のせいだろう。
 
 黄浦公園のあたりから一本の細い帯が伸びてくる。
 鉛筆のような細いロケットだ。
 ハインドの後部近くで光った。
 打ち上げ花火を間近でみたような色と音だった。
 ハインドは上昇し電視塔の方角に傾いてゆく。後部排気口の辺りがオレンジ色に燃えている。
 暫くすると高層ビルの影から爆発音が届いた。