五六 イロコイ
 
 
 
 
■ 髪の短い男が走ってきて私に携帯電話を渡した。
「おお、おれだ。何処に降りればいいんだ」
 吉川の声だ。
「なにやってんだよ、大事な時にいねえじゃねえか」
 
「馬鹿いうな、駆け回ってヘリを調達してきたんじゃねえか、ヘリがなきゃ現代戦は戦えねえってのはベトナム以来の常識だ」
 上空のヘリには吉川が乗っている。奴は本当に組織人なのだろうか。
 その時、大音響とともに二階建ての建物が爆発した。
 辺りが真っ白になり破片が散らばる。
 一時後退した戦車が砲撃を加えたのだ。コンクリの破片がDSの屋根にまで落ちてきた。頭を抱えその場にうずくまる。
「ともかく、あの戦車なんとかしろよ」
「まかせとけ、あんなもなあ旧式のTー五五じゃねえか。ロケットが二発あるんだ」
 見上げると、アメリカ製の単発ヘリコプターのようだ。白と青に機体が塗られている。民間機だ。ベトナム以来見慣れたベルのUHー1シリーズである。
 脚の部分に攻撃用ポッドがひとつ付いている。何処で捜してきたのか、カーキー色に塗られたポットが片側にぶら下がっていた。
 機体が旋回した。ホバリングしながら戦車に向けてロケットが発射された。
 外れる。
 反動で攻撃用ポッドを止めている留め金が支柱から外れかかっている。
「パイロットがロシア人なんだ。ミルのヒップしか操縦したことがないと言っている」
 吉川が言い訳をしている。けれども、発射したロケットは一台の軽車両をひっくり返していた。