五三 地下道
■ 階段を降りるとき一度転んだ。スピードが出ていないので大したことはない。小さなモトクロッサーに二人乗りではバランスが取れない。
「本当に免許持ってるんですか」
走羽が膝の埃を払いながら言った。
大ぶりのマグライトをガムテープでハンドルにくくりつけた。地下道は照明がなく、バイクにもヘッドライトはついていない。
こんな処に地下鉄が通る予定だとは知らなかった。
「足、チェーンに挟むなよ」
体勢を立て直し私はスロットルを捻った。
フロントが僅かに浮く。甲高い2ストロークの排気音を響かせて、私たちは地下道を走った。走羽は私の腰を片手で持ち、両足を広げ宙に浮かせている。
ああ、とか、おお、とかいう声を出しながら速度を上げた。線路の間がすこし窪んだ側溝になっている。前輪を合わせバランスを取る。
「だけど、なんでここまで付き合ってくれるんだ」
私は逆立つ髪の毛を意識しながら走羽に聞いてみた。
「さあ、供養ですかね」
よく聞き取れなかった。大声を出すべきだ。
目の前に段差があり、ギアを落としてハンドルを引いた。車体が浮いてそれから大きく揺れた。側面のコンクリを右足で思い切り蹴った。痺れる。
正面に灯りのようなものが漏れている。勢いをつけて階段を昇った。こんどは転ばない。左に折れてゆく。通路の奧に鉄製のドアがある。
走羽が私の肩越しにグレネードランチャーを撃った。目の前が真っ白になる。大声を出しながらぶつかった。バイクの前輪が潰れドアが壊れた。ふわりと車体が揺れ、そのまま横滑りになった。