■ 私は走羽の顔をみた。
 走羽はナイロンザックの中から湾曲した弁当箱のようなものをふたつ取り出した。クレイモア対人地雷である。髪の短い男に渡している。
 入口に地雷を仕掛け、ここでくい止めるよう指示した。走羽の手下が粘土からの細いコードを地雷の起爆スイッチに繋いでいる。粘土はプラスチック爆薬なのだろう。包み紙にゴシック体の英語がみえる。
 クレイモア対人地雷の中には鋼鉄の小球が七〇〇個入っている。指向性であり、半径一〇〇メートルに渡って扇状に小球が飛び散る。〈FRONT TOWARD ENEMY〉と書かれた面を相手に向けるようセットする。ベトナムで使われたボール爆弾と同じ原理だ。
 走羽がベレッタを取り出し、ディスプレイに撃ち込んだ。
「電視塔です」
「え」
「さっき、車の窓から電視塔の灯りがみえました。北沢はそこから話しています」
 走羽がナイロンザックを肩に掛けながら言った。
「この下に地下鉄の路線があります、工事中ですが。そこから浦東公園に出られます」
 浦東公園は東方明珠の前に広がっている。
 低い樹木があり、黄浦江を隔てた対岸は外灘の旧租界地帯だった。
 
「あなたが運転して下さい。わたしはバイクに乗れない」
 走羽がドアの外に出た。