■ 私は煙草を吸わなかった。メイドに勧められたが座ることもしなかった。長椅子の横に立ち、手入れされた芝生を眺めていた。
 葉子がドアを開けた。後ろに父親が立っている。右手で指示され、私は長椅子に座った。
「いや、どうも」
 葉子の父親が頭を下げる。私もそれに従う。濃い茶色のガウンを着て、葉子の父は左手を首から吊っている。
 僅かに痩せたようだ。頬がこけ顔色はガウンの色にも似ている。
 六十の半ば過ぎだと思われる葉子の父は、その世代にしては背が高かった。髪は後退しているが白髪という訳でもなく、がっしりした首と体躯をしている。
「おまえは二階にあがっていなさい」
 父親は葉子に言う。葉子は何か言いたげに一度振り向いたが、ドアの外に出た。
「それで、君はわたしに何を聞きたいんだね」
「ええ、どこまでご存じかどうかです」
「なんのことかな」
 私たちは腹を探りあってみた。