■ 西風の成功を黙って眺めている上海人ではない。
人民公園の脇には中国資本の店が並ぶことになった。そこでは炒飯がセットで出されている。
もともと南京路にあったレストランが「鶏」の名前をつけ、西洋資本に対抗し成功を収めていた。今では北京にまで支店を拡大しているという。
私はそんなことを思い出していた。
上海に渡ってすぐの頃、葉子とともに街をすこし歩いた。
中国には標準語として北京語が使われているが、その読みは共通でも、その発音が上海では全く異なる。たとえば「私」のことを北京語では「ウオ」と発音するが、上海では「アラ」。「あなた」は「ニー」に対して「ノン」といった按配だ。
まして上海人はプライドが独特に高く、北京のことを「バッツ」と軽視する。「田舎者」という意味だ。上海以外の土地を、上海人はすべて田舎だと信じ込んでいた。それに対抗するには金の力を誇示する以外にはない。私は、些かうんざりした気分が甦ってくるのを感じた。
「熱が下がってよかったね」
江菫が笑っている。
「昨日はどこで薬を買ったんだ」
「チャイナタウン、小さいのね。何軒か廻ると店のひとが教えてくれたの。奥の薬屋さん」
「あれは漢方薬なのかな」
「ミミズと食用鼠の睾丸を干して混ぜたもの」
そんなことでいちいち驚かなくなっている。