■ 眼が覚めると、空気が新しくなっている。頭痛はとれたようだ。
私は丸一日眠っていたらしい。時計をみると午前九時をすこし廻ったところだった。ツインの片方のベットには江菫が背中を向けて丸まっていた。毛布をかけず、カバーの上に直接寝ている。
私はシャワーを浴びることにした。歯を磨いたが吐き気はなかった。
小便がたくさん出て、それはみたこともない色をしている。
江菫を促し、身支度をさせた。彼女は自分の鞄を浴室に持ってゆき、そこで着替えた。若い娘だから案外時間はかからない。
ホテルを出ると、日差しがきつかった。長崎の街の空気はどこかのんびりしている。車輪のついたスーツケースを引きずって、私たちはアーケードのある長い商店街を歩いていった。
「あ、フライドチキンだわ」
江菫が指さす。どこにでもあるファーストフードの店だ。
「人民公園の傍にあるでしょ、並ばないと入れないのよ」
入ることにした。私はコーヒーを頼む。
江菫は鶏の脚を瞬く間に三つ食べた。
「同じ味がするね」
上海にこの店のチェーンが初めて出店したのは八九年だと言われる。
本店の売り上げは、二百席で月に約三十万元(六百万円)。上海の労働者の表むきの平均月収が四百?五百元(八千円?一万円)だとされる中で、この数字は驚異的なものだと言われていた。