■ 午前二時を廻った。
 私はハード・ディスクにMOからデーターを移していた。
 その夜、私はとある容器メーカーのコピーを考えていた。プラスチック容器専門の会社である。その会社は、一リットルのペットボトルから、ポンプ式の様々な容器まで、およそ生活に関与するプラスチック製の容器ならそのほとんどを製造していた。上海にゆく前から、何か適当なものがあったら社内用のポスターに幾つかを考えてみてくれ、と担当者に言われていたのだ。
 素案の文面を幾つもベタ打ちし、手持ちの写真と組み合わせてイメージを作る。片一方の機械は懸命にデーターを移している。光磁気ディスクの回転音はかなり耳に触るものだ。
 
 私は上海の東方明珠広播電視塔の夜景を使うことにした。
 電視塔は高さ四百六十数メートル、二十一世紀にむけ中国開放政策の拠点となる浦東新区総合開発地域のシンボルである。
 旧租界地帯に並ぶ一九二○年代の建築物に照明があたっている。向こうに電視塔がみえている。当時の短い狂乱と今の時代とが奇妙にシンクロしているようにも思われる。
 通りには沢山の人が歩いていたが、写真には映らない。シャッターを開放して撮ってみたのだ。ピントも甘くあまり出来が良いものとは言えないが、どこか泥臭い近未来の都市の風景がそこにはあるように私には思えた。
 写真を加工するソフトで、画面の一番手前に一本のペットボトルを置いてみる。透明なボトルで、三分の二程水が入っている。これは昔スタジオで撮ったものだ。ボトルの中で水が僅かに波打っている。
 重ねてみると、光の具合が背後の写真と異なっていた。ボトルだけが浮いてしまっている。ボトルだけのデーターを取り出し、触っていたら機械が突然ハングした。メモリが不足したようだ。仕方なくリセットする。フォントを登録しすぎたのか、立ち上がるのに時間がかかる。
 私は煙草を吸うことにした。今日二箱目を開けた。
 実撮影しなければ無理なのかも知れない。どの場所で撮るべきか、私はぼんやりと記憶を辿った。
 電話が鳴る。ファクスかと思うと、そうではなかった。