新橋のクーペ。
■ XJ-Sのメンテが非現実的だということになって、現行ジャガーのXK8のクーペを捜した。セダンは駐車場に指折り駐まっているからというのが、最も大きな理由だった。
XJは中が狭いのであるが、どうせ狭いのならクーペにしてしまえ。
正確にはこの7月に新しいものが出て、ほぼ9年近く生産されたXK8は旧型になっている。
手が届きそうなのは、00年以前の初期型。4リッターのそれである。
スーパーチャージャーの付かない素のエンジン。どちらかというと鰻犬のような形をしているが、Eタイプもそんなものだから致し方ない。
■ 関東のジャガー認定の店にいい出物があったのだが、ドウシタラヨカロとびびっていたら売れてしまった。
自分に似合うだろうかと自問したり、残高を眺めて途方に暮れていたら時期を逸した。この辺り、男女の関係にも似ている。
その後、その店の社長が下取りの1.1万キロというのを見つけてきて、予算と按配を尋ねてきた。年式はやや古いものの、車庫保管の極上であるらしかった。
が、交渉中、オーナーの方がより高い方へと流れてこの話は破談になる。
どうしても、と粘れば良かったのだろうが、熱くなると車の場合大抵はしくじる。
私は大体この辺りで見切りをつけてしまった。
それよりも、ここで無理をするとなんとはなしにムゴーイ目に会うような予感もしたのだ。
■ 白金台のスタンドで、このクーペのグレーを見かけたことがある。
こちらはスーパーチャージャーのついたXKRの方で、タイアもやや大きい。
このスタンドは、とんでもない車が時々来る場所なのだが、店員は気さくである。ポイントのスタンプが溜まる。
グレーのクーペには50代後半の紳士が乗っていた。
彼はトランク(ゴルフバックがふたつしか入らない。が、私はゴルフはしない)からスーツケースを取り出し、それから横断歩道の階段を登ってゆく。
給油と洗車を頼んで、所用を済ませにゆくらしい。眺めていると、手洗洗車の方である。ジャガーは塗装が弱く、機械式ではすぐにスクラッチが出る。そのためかと思われた。
その方は太っていたが、髪はやや長く、勤め人ではなさそうである。普通の社長でもあるまい。
時折、大抵は午後だが、天現寺から曲がる辺りで、ブリティッシュ・レーシング・グリーンのXKクラシックも見かけることがある。
後ろから眺めるとやや腰高で、だから18インチのホイールを履いて車高をすこし下げるのが定番になっているのだろう。このシャーシではドタバタしてしまうのだが。
何時だったか、新橋から銀座に向かう時、渋滞の中で黒いこのクーペと並んだことも思い出した。
髪を後ろになでつけた壮年の男が運転していて、隣だったから見えたのだが、腕時計がピアジェだった。ハンドルが左だから、平行物だったかも知れない。
ピアジェかあ、と思った記憶がある。
車に罪はないが、そのように乗られては変わったメルセデスのSになってしまう。
つまり、私にはまだ手に余るところがあったのかも知れない。
価格ということを抜きにしてもである。