緑坂ふたたび。
 
 
 
■ 夏が近い。
 かといって空は低く、きつい服を着込むと僅かに食い込んだ。
 暫くのあいだ、旅のようなものをしていて、そろそろいいだろうという気になっている。
 大体の結果が出たからであって、そこもまた巧妙に仕組まれてはいるものの、遡れば素朴な現世利益の世界であった。
 
 
 
■ 途中、車が壊れ、代替のために動いていた。
 私がいるところの駐車場にはジャガーの生息率が比較的高く、中には黒いXJRなどもいる。XJRはご存知 375ps。AMG E55 と並ぶ快速セダンである。270は楽に出る。
 型番はひとつ前のものである。
 時折、50代の紳士が小さな女の子を二人乗せ、日吉坂の方面に曲がってゆくのをみかけたことがあった。
 程度のいいものを捜していたのだが、そう旨くはゆかない。
 手の届きそうなものは、西ドイツから平行輸入されたもので、実に何キロ走っているかが定かではない。内装は黒で、こちらの方が良いのであるが。
 昔はどの店にいたのだろうといぶかしい、ロレックスをはめた狐顔の妙齢中ほどに薦められる。車屋というのは面白いもので、サイトの造りや雑誌広告が派手なところほど、実際にいってみると別物である。
 
 
 
■ ジャガーの内装の皮、その6割はよくできた塩化ビニールである。
 身体にあたるところだけが、コノリー・レザーでできているが、その後ろなど、試みに爪を立ててみるとその皺はすぐに回復する。回復するところがフェイクであって、この辺りは元々の車の階層に準じている。英国では中産階級の車と永く定義されてきたのだ。
上層が滅びたものだから、相対的に高級に見えているだけだという話もある。
 3.2と4.0とではウッドの色と素材が異なり、例えばハンドブレーキの部分がプラになっていたりする。
 車のことを書くと「夜の魚」ではないが、とまらなくなるので続く。