ぞくぞく、女郎の足抜け。
 
 
 
 
■ 彼女はいわゆる中産階級のひとり娘である。
 郊外に家があり、教育を受け、途中ではぐれ、何か夢のように絶対的なものを求めた。 思い立ったらすぐ旅に出てしまうような、わたしはボスボラス海峡が好きなのよ、とか80年代中頃には多分言っていたのだろう。
 恋をするが、その恋には現実味がない。
 破滅であるとか「スパゲテツティ・コナチーズ・カケテクレンチョ」の伊達男に弱かった。ツが大文字であるところに注意。
 
 
 
■ でへでへでへ。
 と、本当は泣くところだ。
 女の泣き顔には育ちが出るというが、ほぼ鼻水を垂らしてもいい段階ではあったように思われる。
 ここでいい、というのは建前で、本当はその角を曲がって茶を一杯。
 
 
 
■ 送り届けた後、私はコンビニで暖かいお茶と肉まんを買った。
 郊外のコンビニは、小学校のグランド半分くらいの駐車場がある。
 若い女の店員は、お釣りの小銭を投げてよこすようなこともなかった。
 それからまた道に迷い、いくつもの通りを抜けて、小林旭と美空ひばりのCDを聴きながらずるずる都心に戻ってきたのである。