江戸切子。
 
 
 
■ まだ痩せた月を眺めてから戻ってきた。
 手元に藍色のグラスがあって、切り口がやや厚い。
 ショットのグラスというのは、唇にあたる辺りが要なのだが、最近はどうでもいいというか、角ばったそれも悪くないと思っている。というよりも、少しいびつな方がまだいいような気もしていた。
 むろん、内側で嘗める場合はである。
 

 
■ いつだったかの夕方、広い道路に出ようとすると銀色のメルセデスが昇ってくる。フロントのふくらみが、AMG C43だった。もちろん、最近復活したモデルではなく、オリジナルのそれである。
 ドライバーは、昔の五木寛行さんのような髪型の白髪で、一定の年齢の方かと思われた。
 私は後ろにつき、すこしばかりにやにやしている。
 呆れる程手入れされている、ということもないが、やや新しい型番のホイルに履き替え、インチアップもせず、太いタイヤは新しい。
 結構な好き者がおられるなと、私は43の後部座席に放り投げられている荷物の影のようなものを眺めていた。あれは何だろうか。仕事の道具かもしれない。
 その方は、前が空いても踏みもせず、ゆっくりと流しては右折レーンに入っていく。