塩だ。
■ いつだったか「シンデレラ・リバティー」という映画をみた。
今からもう40年も前、1974年の作品である。
ゴッド・ファーザーで好演したジェームス・カーンが、うら寂しい水兵の役を演じていた。
結婚もせず子どもも作らず、水兵のままでいい歳になってしまった男。
他に行き場がなかった男。新兵当時の教官は、些細なことから軍を追い出され「年金なしの民間人」になってしまう。古びた将校の軍服を着て、中国人が支配人の店の呼び込みをして凌いでいる。
物語は酒場を庭場とする子持ちの娼婦と帰港した水兵との交情を描いたものである。後半、どちらかと言えば連れ子の混血少年との交流が主軸になっていく。
■ 擬似的な親子。
父と息子との関係はいわく言いがたいものがあって、少年が11歳という設定が微妙なところだった。
これが9歳でも16歳でもまた違った付き合いになっていただろう。
可愛らしい顔の子役を使っていないところがちょっと苦くてリアルである。
魚釣りをしたり自転車で一緒に走ったり。
男、水兵は擬似的な親父の役柄に次第に傾斜していく。
母親のことをひとりの女として眺めようと努力したり、背伸びをしていても、少年は少年だった。
■ 水兵が帰港したのはワシントン州のシアトルの港だった。
はじめ、New York グランド・セントラル駅周辺の盛り場が写っているのかと私は勘違いしていた。
ビルの谷間の階段を上り下りする時の夜景が綺麗なのである。
遠くに高層ビルが見える。その中に取り残されているかのように建っている古いアパートの一室。ゴミの山。
いつかどこかで、こんな部屋を見たような記憶もある。窓を開ければネオンが見えるところは一緒だが、その部屋にはベットではなく畳が敷いてあった。
水兵の日常というのはそう楽しいものでもなく、華々しい未来がある訳でもない。官舎もその私生活もどこか冷え冷えとしていた。
上官の執務室には星条旗とともにニクソン大統領の写真が飾ってある。
カメラはそれを分かるように写していた。
74年はウォーター・ゲートでニクソンが辞めた年。
水兵はベトナムから戻ってきたばかりだったのだろう。