場末の二階。
 
 
 
■ 何時だったか古い友人と話していて、あいつが死んだということを聞いた。
 あいつがか。
 あいつだよ。
 最後は自らであったようだが、その辺りの事情は知らない。
 非常勤で身体を使う仕事に就いていたという。
 嫁さんと子どもは。
 随分前に離婚している。
 
 
 
■ 混み合ったところにある店で知り合い、時々は隣合っていた。
 すぐに議論をふっかけてくる癖があって、一歩も譲らない。私の方がすこし年上だったので、まあそんなものだろうと折れていた。
 専門は音楽だったらしいのだが、確かにフリーの流れを汲むピアノである。繊細で難解で、口を開けて首を振る。アイラーばりと言えば分かりやすいが、音に少しだけ濁りがある。写真や文章にも持論があって、誰しもいないところではかなりの言われようだった。よくある話である。
 当時はまだ高価なDTMの機材を揃えていたというが、それで何を作ったということは聞かなかった。
 彼に結論が出たのは50近くになってからである。40代半ばだったかもしれない。浴びるほどの酒と偏食を続けていたのだろうか、と往年の飲み方を思い出した。
 いくつもの店のソファに潰れていたのを聞いていたからである。
 
 
 
■ 誰かが助けてくれると思ったんだろう。
 そうかもな。
 こんどいってみるか、あのへん。
 友人は私に言った。
 いや、場末が楽しいのは40までだよ。
 ふん、相変わらず分かったようなことを言うじゃないか。
 電話口で、友人は鼻で笑った。