狐眼。
 
 
 
■ ブラウスの胸元から白い谷間がみえている。
 晃子が何かいいながらバスタオルで腹の上を押さえている。
 このまま死ぬ訳はないとおもっていた。
 寒気がする。顎の下が震える。
 晃子が頬を叩いている。
 なんて気丈な女なんだ。まるでオフクロみたいだ。
 腹の中が熱い。
 娘は泣くだろうか、奴と一緒に笑うのだろうか。
 奴。そういえば中野のアパートに見舞いにきてくれたことがあった。チェックのスカートを履いて、女子大ってのは何処か野暮ったい。
 その野暮ったさが良かったんだから、俺もプチブルだ。
 あれは冬の始めだった。旨くゆかなかったけれど、奴が初めてだったせいだ。 多分初めてだったんだろう。次からは旨くいった。
 俺をクンづけで呼びやがった。卒業するまでそうだった。
 俺は何をしてたんだろう。今はなんだ。撃たれたのは始めてだ。
 痛いのか寒いのかどっちかにして貰いたい。
 眼をつぶっていることにする。
 俺は三十女の柔らかい胸が好きなんだ。
(「夜の魚」57)