砂の岬 7.
 
 
 
■「六本木心中」という短編がある。
 笹沢佐保さんが1962年に発表した作品で、昨日夜ぱらぱらと読み返していた。 当時のあの界隈は都電が走っていて、カミナリ族と呼ばれる若者がヘルメットも被らず走り回ってはいた。新宿や上野とは違う、生活感のないちょっとスノッブな匂いが特徴である。
 スノッブの表立った軸足は別のところに移行はしたけれども、今も裏手に一本入れば、そんな風情は色濃く残っている。
 
 
 
■ 16歳の少女と21歳の青年との、どこか虚無的な「道行(みちゆき)」
 ここに出てくる16歳の少女は身体が細く、決して肉感的な雰囲気ではない。多分胸も小さいだろう。
 ヘプバーンの「ティファニーで朝食を」が61年の公開であるから、その影響かとも思う。
 私は池部良さんが格好良かった映画「乾いた花」を思い出していた。
 あれが確か64年。東京オリンピックの年だ。
「乾いた花」でのヒロイン、加賀まりこさんが16だったと考えれば少しは辻褄があうだろうか。
 
 
 
■ 何故こんなことを書いているかというと、「道行」である。
 いわゆる心中という奴で、西鶴や近松まで遡らずとも、というところもある。