水の味 3.
 
 
 
■ サイド・カーの船は黒かった。
 ライダーは伏せた姿勢ではなく、背中が伸びていて、となると押さえの利くハンドルの広さだったかもしれない。
 ドニエプルかウラルか、BMWの69に側車付ってことはないだろう。
 霞ヶ関から新宿へ抜けるランプウェイはいつも少しだけ緊張する。
 後ろを確認する間もなく、すぐに寄っていかねばならないからだ。
 この辺りを老いた親や2-3人の子どもを乗せ、スムースに走っているミニバンがいたとして、彼らは若い頃、ホンダかスバルに大半のものを注ぎ込んでいた末裔である。
 
 
 
■ 十月も半ばを過ぎて、冷たい雨が一日中降っていた。
 今となってはそんな側車が走っていたのか、幻だったような気もする。
 限界の8割くらいの速度で、びしょ濡れになりながら北か西へ向かうライダーがいて、多分下着もそうだ。
 馬鹿なことをと笑うには、水も古くなっている。