Blues-like 9.
■「夜の魚」というのは、半ば車の小説だった。
ダウン・ドラフトの吸気音が響いている。通りを抜け、深夜の首都高速を一周する。右の後ろがすこし抜けているようだ。シンクロもセカンドが緩いだけで鳴る事はなかった。銀座裏の橋をくぐり、産業道路の上で国産のRに抜かれた。
■ ここはアルファのお話である。
GTVとあるが、本当はGTAのことを指している。段が付いている奴ですね。
今読み返すと細かいところで間違いもあるのだけれども、30代前半の若造が書いていたのだからご笑覧のほど。
90年代半ばといえば、車好きのほぼ二割は少し古いアルファに憧れた。
ルーフの丸みと、思ったよりタフなエンジンと、夜店の金魚掬いに貼ってある白い紙のように脆いボディと、その横に乗るかもしれない妙齢中ほどの、放っておいても突き出してみえる唇のかたちに人生を賭けていたのである。